カンムリワシが舞う農園づくり

石垣島には貴重な生物多様性が残され、島内の各所が国立公園や鳥獣保護区に指定されています。

 島における生態系の頂点は、カンムリワシです。国が指定する特別天然記念物で、絶滅危惧種1A類に分類されています。日本のカンムリワシは石垣島と西表島にのみ生息し、生息数はわずか200羽ほどと考えられ、同じ天然記念物のライチョウが約2,000羽であることを踏まえると、深刻な生息数と考えられます。近年、石垣島では開発が進み、カンムリワシが生活できる森林が多く残っていません。これに加え、毎年カンムリワシが犠牲になる交通事故が10件ほど発生し絶滅に拍車をかけている状態です。2023年4月には環境省沖縄奄美自然環境事務所よりカンムリワシ保全方針が発表され、保護強化の姿勢が示されていました。こうした交通事故を防ぐために、2つの方法が考えられます。

1つ目は、カンムリワシが道路に出ないように生き物緩衝地帯を設けることです。カンムリワシは里の鳥と呼ばれ、林縁部によく現れます。森と隣接する道路で、車に轢かれたカエルやトカゲなどの小動物を求めて活動することが多く、これが事故の一因といえます。森と道路の間に、無農薬の水田のようなカンムリワシが餌とする生物が集まる湿地があれば、カンムリワシが道路に出てくることを防ぐことができます。しかし、石垣島ではそのような湿地が多く残されていません。カンムリワシを守ることは生態系を守ることです。カンムリワシが餌場とできるような湿地をつくることは、カエルや水生昆虫など多くの生物にとっての生息場所ともなります。カンムリワシが利用する湿地を人の手で増やす事例をつくり、そうした場所の重要性を島内外の人に普及していく必要があります。

2つ目が、安全運転の徹底です。これは人の意識で変えることができます。実は石垣の市街地に暮らす人は、本物のカンムリワシを見たことがないという人も少なくありません。ましてや観光客はカンムリワシの存在を知る前に島内を高速運転する人も多いでしょう。リアルなカンムリワシと交通事故の深刻さとを合わせて知ることができる場所が必要です。

 また、石垣島の深刻な環境問題として加えたいことに不法投棄があげられます。漂着ゴミとは別に、人の目が入りにくい海岸付近や山の中に石垣市民が不法投棄を行っている現状があります。耕作放棄地を利活用するうえで最も大きな問題がこの大量の不法投棄です。湿地づくりと同時に、石垣市民にこの不法投棄の問題について知っていただき、市民の意識を向けて抑止していく必要があります。

株式会社みーふぁいゆが所有する耕作放棄地(以下、本農園)に湿地を設け、カンムリワシが好むカエルやカニを中心に水場を利用する生物が生息する環境をつくります。また、市民向けに湿地観察会を行い、カンムリワシについて生息地保全と交通事故防止2つの観点から普及活動を行います。

本農園の南側には前勢岳があり、その北麓では営巣2組を含む10羽ものカンムリワシの活動が確認されています。周辺は牧草地が多く、湿地はありません。西側の海岸沿いの道路は環境省政策のカンムリワシ運転注意マップの交通事故多発区間に含まれています。本農園に農薬が流れ込まない湿地を設けることで、カンムリワシが湿地にカエルやカニなどの餌を求めるようになり、道路での活動を抑止する効果が期待されます。

大まかにユンボで池となる穴を掘った後、手作業で複雑な入り江、湿地帯エコトーンとなる場所をつくります。湿地帯の設計には「自宅で湿地帯ビオトープ!」(中島敦 著, 2023年4月)を参照の上、カンムリワシが利用することを想定して、池の水深は浅く、森林と隣接した湿地を設けます。また、将来的に無農薬の水田を運用することを目標に、実験的に小さな水田を設けます。水源を近くの川から引くか、井戸を掘るか、天水のみにするかは専門家の指導のもと決定します。